ICUの7日間
意識を取り戻すまで 丸2 日かかったそうです。ところがその後も不整脈のため意識を失い、計4回 AED で蘇生させられたそうです。麻酔がかなり効いていたので、意識がうっすらとし始めた途端に私は激しい幻聴幻覚に襲われました。それがあまりにも生々しいので今でも記憶に残っています。これらの幻聴幻覚(=妄想)が起きる状態は「ICU 証拠群」と呼ばれます。酷い状態になると認知症を発症したり、進行が早まります。ICUで見る妄想は麻酔の影響によるところ大ですが、その内容は入院以前にすでに発症している身体の異常から起こるものや、潜在意識にある不安が具現化されたものだそうです。以下その時の妄想の記録。
【爆音】最初の幻聴幻覚は、聞いたことのない激しい爆音と宗教がかった小病院の光景でした。家内と子供達に「ここから直ぐに離れ東北方面に避難しろ。」と伝え、家族はその指示通りにしてくれました。何故か私はその病院に居続けます。「こんな爆音を響かせているのになぜ警察は関与して来ないのだ」と腹を立てていると、パトカーが来て音源を探すのですが見つからず、いそいそと帰ってしまうのです。「えっえー。」私は爆音でまたまた意識を失ってしまうのです。次に意識が戻った時その爆音を鳴らしているのが何かの新興宗教だと分かります。爆音の中、多くの人々が踊り狂っているのです。彼らは私を懸命に誘うのですが、「絶対そっちに行くもんか」と、どかんと座っていました。踊りの輪の中に上半身裸になっている男性や女性がいるのです。また意識を失いまた戻ると、また爆音が聞こえてきました。今度は教祖と思しき女性が登場し、大きな鍵で音源を止めてしまうのです。(爆音が鳴ったらこの教祖様にお願いすればいいんだ!)という気持ちに駆られます。(危ない!引き込まれてしまう!)。その女性は何と今私の看護をしている看護師さんだったのです。私が中々信じないのを見て、その看護師さん、膝をついて両手を組んで祈り始めます。その後すくっと立ち上がり、数珠を持ってベッドの周りを歩き回り、何やら聖水らしき物を私に振りかけたのです。その場面で再び意識がなくなりました。私は四六時中ジーンとかキーンとかの耳鳴りがしています。この爆音はその音が増幅されたものと思われます。新興宗教は Facebook でも取り上げられている中国発祥のキリスト教の異端でした。看護師さんが聖水を私に掛けてくる光景も以前映画「エクソシスト」で見た光景です。
【地獄の光景】次に意識を取り戻してみると、私は尋常ではないほど深く掘られた穴の底。熱くもなく冷たくもないところです。誰もいません。はるかに上の穴の出口には見覚えのある基督者の姿があるのです。漆黒の暗闇の中私は叫んでいるのです。「私は地獄に落ちて当然な人間です。でもその場所から祈れば、ここにいる人も私も救われます。どうかお願いします。」頭の中に思い浮かんだのはあの「貧乏人ラザロと金持ち(ルカの福音書16章)」でした。叫び終わるとまた意識が遠のきました。次に意識を取り戻すと、私は全く無音の建造物の中にいるのです。淡いピンク色に可愛らしい花が咲いている壁紙が貼ってありました。石垣で組まれているゆるやかな坂道が設置されています。私は手足が全く動かせないどころか、言葉を発することすらできないのです。私はそこにある石垣の石になっていたのです。ここにある石垣の石から人の気配は感じるのですが誰一人言葉が出せないのです。何処からか声がしました。「ここが地獄だ。」私が見た地獄とは、体裁は整った美しい場所なのに、身動きも言葉も発することができない場所だったのです。意識ははっきりしているのにこの状態が永遠に続くところなのです。私が体験した二つの地獄とは聖書にある暗黒や炎で取り囲まれたところではなく、「永遠に孤独を味わう身動きも言葉も発することがでない場所」だったのです。可笑しな話ですが私はその場所にいることが一秒たりとも我慢できず、死を願うのですができません。すでに死んでいる想定の妄想だからです。しかしこの地獄の妄想を見た後で再び意識がなくなることに実は安堵したものです。なぜなら、これは私の妄想と感じることができたからです。ICUから別病棟移されたとき私はとても悩みました。基督者として、きちんと悔い改め、十字架の赦しを経験し、主の恵みの数々に浴しながら、穏やかな天国に連れて行かれず、何故こんな場所でもがき苦しむ必要があったのだろう。71日間の入院生活でその意味が次第にはっきりしてきたのを覚えています。
【意識が戻る】意識が戻り、私の病床の周りがうっすらと見え始めてくると、今度は強烈に喉が渇いてくるのです。家内がスマホで撮影していたのですが「もう天国へ向かっていいから水をください」と言っていたのです。その時は真剣にそう思いました。ちょうどその時、看護士さんと思しき人が、大声で「何言ってるの!手術は成功して、アサカさんは生きてるの!」そう言っているのがはっきり聞こえたのです。ところがあんな恐ろしい思いをして来たので、「そんなの嘘だ。家内を呼んでください。家内の言う事なら信じられるから。」と叫んでいたそうです。傍には家内がいたそうですが、識別できませんでした。更に畳み掛ける様な大声で、看護士さんが「奥さんはここにいるわよ。アサカさんは確かに助かったの。命があるの。」の声が初めて真実の様な気がした瞬間、喉の渇きが消えて行くのです。安心したのか、その後ぐっすりと寝てしまったそうです。何日目になったか定かではありませんが 「アサカさん。アサカさん。」の声で呼び覚まされました。二人の看護師さんがはっきりと見えました。「ここはどこ?」の質問をしてくるので、「市民病院」と応えると、ざわざわと声がして来ました。なおもしつこく、「伊勢崎何病院?」と尋ねるので、「伊勢崎市民病院ですよ。」と応えると、周りから拍手が聞こえた気がしました。僕は一命を取り留め、今病院の ICUにいる事がはっきりしてきました。
【妄想と現実のはざま】その後も起きている時間より寝ている時間の方が多く、その間様々な妄想を見続けます。換気扇から悪魔の声が聞こえてきたり、ジプトーンと言う天井版が詩人の相田みつをさんの作品の文に見えてきたり、男性看護師さんが詐欺師集団の一人に見えたり、校庭で蜂に刺された小学生が次から次へとICUに運ばれてきたり、看護師さんの打ち合わせの様子が新興宗教の集会に見えたり、自分の手をナイフで削っている男性が私の隣に来たり、かと思えば、ユダヤ人の民族衣装をまとった老人が私の手を取りイスラエルへ瞬間移動させたりと、次から次へと。しかもどれも鮮明なので数日後にそれらを全てスマホのメモ帳に打ち込むことができるほどでした。
【ICU卒業】これからは現実そのものです。私のおちんちんには管が差し込まれ、尿が別容器に貯まる様になっていました。これは離尿剤を使い、血管に負担をかける成分を尿と一緒に取ってしまうためです。ICU6日目、尿の出が悪いと言うことで管を取り替える事になり、若い女性看護師さんにその役が回って来ました。道具を取りに行くと言ったきりなかなか戻って来ません。戻ってくると早速管を抜き、管を差し入れるのですが、その痛さは悶絶するほどでした。ICU8日目、ICU から一般病棟に移動するため全身の洗浄をしてもらい寝巻も取り替えられました。担当してくれた女性看護師の方に深く御礼をし、ベッドのまま移送されます。その際移送されるベッドからでは見えないので、婦長さんがいる方にめがけて、親指を立て手を高々と伸ばしました。すると歓声の様な声が聞こえて来ました。看護師さん全員が第一ステップ終了をお祝いしてくれた様でした。私を担当してくれた二人の看護師さんから「完治したら ICU に来て挨拶してね。皆が喜ぶから。」と言ってくれました。涙が出てきました。
昏睡状態のこの7日間は、凡そ信仰と呼べない代物を抱え込んでいた「私」の牙城を崩すのに要した時間でした。後ほど詳細を書きますが、私は家内の「信仰によって」城壁を崩してもらったのです。
| 信仰によって、人々が七日間エリコの周囲を回ると、その城壁は崩れ落ちました。 ヘブル人への手紙11章30節 |